「健康的なペースでダイエットをしたい」
「ダイエットを行う際の食事や運動のペースを知りたい」
自分がどのようなペースでダイエットを始めるべきか、明確に分かっている男性は少ないのではないでしょうか?
日本肥満学会が公表している「肥満症診療ガイドライン2016」ではBMI≧25を肥満と定め、肥満に関わる健康障害の改善や予防を目標として、推奨される体重減量ペースを提示しています。
現在、様々なダイエット方法が存在していますが、まずは自分の現状を理解し、推奨されるペースをもとにダイエットを始めてみてはいかがでしょうか?
目次
【目標】BMIが25以上の方は3か月で現体重から3%減量
肥満の判定
BMIは肥満の判定基準に用いられ、BMI≧25で「肥満」と判定されます。BMI≧25の肥満の状態で、さらに以下の①か②の条件を満たす場合は、「肥満症」という病気として診断されます。
① 肥満に関わる健康障害を有するか、健康障害の合併が予測され、減量が必要な状態
② ウエスト周囲長や腹部CT検査によって、内臓脂肪型肥満と確定診断された状態
肥満症診療ガイドライン2016では、「肥満症」の治療目標として「3~6か月で現在の体重から3%の減量を目標とする。」¹⁾と推奨されています。
一方、「肥満」だけの状態については、ガイドラインで明確な目標は定められていません。
その理由としては、BMI≧25の「肥満」 であっても医学的に減量が必要でない場合があるからです。例えば、医師の診察で健康障害がなくリスクも非常に低いと判断される場合や、内臓脂肪が過剰ではない場合、アスリート(健常な若年力士など)がそれに当たります。
しかし実際は、男性でBMI≧25の「肥満」であれば、血圧高値、血液検査で中性脂肪・コレステロール高値、糖尿病の予備軍、などと指摘されていることが多いはずです。したがって、上記のような例外を除き、男性でBMI≧25の「肥満」であれば肥満症の治療目標に準じて減量することが望ましいです。
GUIDE
BMI = 体重kg ÷ (身長m)²
減量目標値「3%」の理由
特定健診・特定保健指導で、肥満症の診断基準を満たし積極的な支援を6か月間行った3,480人を対象として、1年後の体重変化と血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸の検査値の変化量を検討した報告があります。
その解析によると、1〜3%の減量で中性脂肪、コレステロール、HbA1c、肝機能が改善し、さらに3〜5%の減量では血圧、空腹時血糖、尿酸値が改善したという結果が出ています。²⁾
POINT
【1〜3%減量】
中性脂肪、コレステロール、HbA1c、肝機能が改善
【3〜5%減量】
血圧、血糖値、尿酸値が改善
この結果から、3%以上減量できれば生活習慣病の原因となる血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸の値がまとめて改善されることがわかりました。5%以上の減量としても悪くはないですが、目標が高すぎると達成が難しくなり無理なペースとなる可能性があるので、1つの減量目標としては現体重の3%が適度と考えられます。
ただし、BMIをダイエットの目標にすることは推奨されていません。なぜかというと、適切に減量できたとしてもBMI値の変動は比較的小さく、始めからBMI 25未満などを目指すと大幅な減量が必要となってしまうからです。
減量期間「3か月」の理由
減量計画の期間についてはガイドラインで3〜6か月と推奨されていますが、過度なペースでの食事制限や運動はリバウンドや体調不良を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。
1か月など短期間で急激に減量することはお勧めできません。また逆に、設定期間があまり長すぎると途中で離脱してしまう可能性が高くなってしまいます。
よって、1つのダイエット期間は3か月と設定するのがお勧めです。
<ダイエット計画の具体例>
たとえば170cm、80kg(BMI 27.7)の方に「3か月で-3%」計画を当てはめてみると、最初の3か月で2.4kg減(77.6kg)、次の3か月で2.3kg減(75.3kg)、次の3か月で2.3kg減(73kg)…というようになります。このようにすると、決して無理のない実現しやすいペースとして感じて頂けると思います。
「3か月で-3%」計画を用いて細かく目標を設定することで、ダイエットを継続、達成しやすくできるはずです。
最終的な目標体重に厳密な決まりはないので、個々の健康状態に合わせて無理のない範囲で進めていきましょう。
過度なペースでの食事制限や運動はリバウンドや体調不良を招く
過度なペースでのダイエットや偏った方法のダイエットでは、様々なリスクを伴うので注意が必要です。
リバウンド
自分の生活に合わない過度なペースでの食事制限や運動は、身体的にも精神的にも強いストレスがかかります。
ストレスが過剰になり自分の許容範囲を超えてしまうと、暴飲暴食をしてしまったり急に運動を止めてしまったりと、いわゆるリバウンドを引き起こす可能性が高くなります。
身体にも心にも強いストレスがかからないように、安定したペースでダイエットしていくことが大切です。
栄養バランス
日常生活における活動性や体質などはひとそれぞれであり、適切な食事量・バランスをひとまとめに決めることはできませんが、ダイエットのために過度に偏った食事をすることはお勧めできません。
例えば、炭水化物(糖質)は過剰に摂取すると脂肪蓄積につながりますが、脳や筋肉など臓器を働かせるエネルギー源としては重要な栄養素です。炭水化物の摂取を極端に少なくしてしまうと低血糖となり、吐き気やふらつき、動悸、意識障害などの症状が出ることもあるので注意が必要です。
また、健康食品やサプリメントの過剰摂取にも注意が必要です。健康食品やサプリメントが普通の食品よりも健康に良いか、効果があるか、については科学的根拠が必ずしも十分ではありません。
肝機能障害やアレルギー症状を引き起こしたり、医薬品と相互作用を起こす可能性もありますので、食事の代わりとして大量に摂取することはお勧めできません。
過度な運動
体重が重い状態で急激に運動を行うと、関節に負担がかかり怪我を引き起こす危険性があります。特に膝関節や股関節には大きな負担がかかります。
運動は身体に痛みを感じない範囲で開始し、体重の減り具合に合わせて増やしていくことをお勧めします。
推奨されている健康的な食事、運動のペース
1日の摂取エネルギー量 「25kcal×標準体重(㎏) 以下」
一般的な男性の1日の摂取エネルギー量は2200kcalほどが目安となりますが、³⁾
肥満症治療で推奨されている1日の摂取エネルギー量は25kcal×標準体重(㎏) 以下です。¹⁾
例えば身長が172cmで体重74kgを超えている肥満男性の場合、標準体重はBMI 22×1.72×1.72≒65kgとなり、25kcal×65=1625kcalで、1日の摂取エネルギー量はおよそ1600kcal以下という計算になります。
ただし、推奨されているとはいえ毎日厳密に達成することは難しいので、あくまでも目標として無理のない範囲で食事を調整することが望ましいです。
また、日によって大きなばらつきがあることは望ましくありません。「前日に何も食べなかったから、今日は3000kcalくらい食べていい」とはなりません。できるだけ安定した食事量を継続していくことが大切です。
エネルギー源になる栄養素として、炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質が3大栄養素と言われますが、それぞれのバランスとしては炭水化物60%、タンパク質15〜20%、脂質20〜25%とするのが一般的です。
低~中強度の運動を週5日程度行う
理想的な運動のペースは、低〜中強度の運動を、週5日以上、1日合計30〜60分、有酸素運動を主体として無酸素運動も併用、それを継続することが望ましいです。
ただし、忙しく働く男性にとって、このペースを継続することは現実的には難しいかもしれません。今回のテーマと矛盾してしまいますが、運動についてはあまりペースを意識し過ぎず、何でも良いので自分が取り組みやすい運動を続けることが大切です。
ウォーキングであれば自分の好きな時間に行うことができます。外での運動が苦手な方は、自宅内で筋トレなどを行うのも良いでしょう。
また、無理して運動する時間を作らなくても、日々の生活の中でできるだけ動くことも有効です。通勤の際になるべく階段を使う、少し早歩きをする、などでもエネルギー消費が期待できます。掃除や洗濯など、家事で動くことによってもエネルギーが消費されます。
運動する時間を十分に作れない場合でも、できるだけ動くようにすることが重要です。
初期の減少、停滞期の原因と対策
減量ペースを意識してダイエットを行っても、毎月同じペースで体重を減らし続けることは難しく、初期の急な減少や停滞期により不安に陥ってしまう方が多いのではないでしょうか。
ダイエットのペースが一定とならない原因を知っておくことで、焦らず健康的なダイエットを継続することができます。
初期の減少
ダイエットを始めてすぐの体重の減少は、脂肪の減少以外にも理由があります。
1.体内の余分な水分の減少
一般的な成人男性では体重の約60%は水分であり、体内の水分量と体重の変動は密接に関係しています。食事に含まれる塩分の主成分は塩化ナトリウムであり、そのナトリウムは水分を保持する作用があります。
ナトリウムを過剰に摂取すると体内に余分な水分が貯留してしまい、むくみや体重増加の原因となってしまいます。ダイエットを始めて食事の量やバランスが適切になることで過剰な塩分摂取が抑えられ、余分な水分が減少し、体重の減少につながります。
2.消化管内の重量の減少
体重の測定値には本来の体重に加えて、胃内の食物や小腸内の消化物、大腸内の便の重量も含まれています。食事量が多く便秘状態であれば、その重量分だけ体重も高い値で測定されます。ダイエットを始めて過剰であった食事量が適切に減り、便秘が解消されることでも体重は減少します。
停滞期
ダイエットを続けていくと、体重が減らない停滞期が問題になってきます。停滞期についてはネット上で様々な説があり、そもそも停滞期という名称自体が正しいか難しいところがありますが、体重が減らない原因としては以下のようなことが考えられます。
1.急なペースのダイエットでストレスがかかっている
人間の身体にストレスがかかると、副腎皮質からコルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールは脂質の代謝に影響を及ぼし、短期間では脂肪を分解する作用があります。
しかし、長期間に過剰に分泌されると脂肪を合成する作用となり脂肪を蓄積させてしまいます。そのメカニズムは非常に複雑で、それぞれ状況が異なるため時期について断言はできませんが、ダイエットを続けていくと体重が減らなくなる原因の一つとして考えられます。また、コルチゾールには食欲亢進の作用もあるので、食べ過ぎの原因となる可能性もあります。
対策としては、できるだけストレスにならないようなペースでダイエットを行うことです。現実的でない食事制限や過度な運動はストレスの原因となるので、自分の生活に見合ったダイエット方法を少しずつ取り入れていくと良いと思います。
2.エネルギーバランスが平衡状態
ダイエットを始めて食事制限や運動のバランスが良く、エネルギー摂取量<エネルギー消費量であると体重が減少していきます。ただし、体重が減少するとそれに伴ってエネルギー消費量も減少していきます。ダイエットが進んでいくといつの間にかエネルギー摂取量=エネルギー消費量となり、エネルギーバランスが平衡状態に達して体重が減らなくなります。
対策としては、食事や運動について見直すことです。食事量や運動量が今の自分に合っているのか?ダイエットのスタートがうまくいっていても、まだまだ間食が多かったり、1回の食事量が多かったりするかもしれません。体重が減り始めたところで、ついつい運動の頻度が減ってしまっているかもしれません。最初に立てた計画が絶対ではありません。自分の状態を見極めて、その都度ダイエットの計画を修正していくことが大切です。
3.減量ペースは漸減していくもの
「3か月で-3%」のペースで順調に減量していくと、-3%計算の元となる体重が減っていくので、徐々に減量ペースが緩やかになっていくのは当然です。最終的には、良好な健康状態で適度な体重を維持していくことが大切です。
【男性向け】健康的なダイエットの減量ペースまとめ
今回はダイエットの基本となる減量ペースについて紹介しました。
現在、様々なダイエット方法が紹介されていますが、無理なペースでなければ気になるものから取り入れて良いと思います。様々なダイエット方法を試してみて、なるべくストレスのかからない自分に合った方法で継続することが重要です。
また、目標ペースを達成できない=失敗、ではありません。体重を少しでも減らすことで、様々な健康障害のリスクを下げることができます。ダイエット計画を立てつつも、とりあえず始めてみることが大切です。
参考文献
1) 日本肥満学会
肥満症診療ガイドライン2016.ライフサイエンス出版.2016
2) 厚生労働科学研究
「生活習慣病予防活動・疾病管理による健康指標に及ぼす影響と医療費適正化効果に関する研究」
3) 農林水産省
「実践食育ナビ 一日に必要なエネルギー量と摂取の目安」