「脂肪吸引ってどんなやり方で行うんだろう」
「いろいろな種類があるみたいだけど、違いって何だろう」
このように考えている方もいらっしゃると思います。今回の記事では、美容外科で10年以上脂肪吸引に携わってきた私が、様々な脂肪吸引のバリエーションについて説明します。
今から40-50年前には脂肪吸引は存在せず、「脂肪を減らしたい」という方に対しては脂肪切除術を行うしかありませんでした。
多すぎる皮下脂肪を皮膚ごと切り取ってしまうという荒っぽい方法で、ダウンタイムが非常に長い上に出血量も多く「命がけの手術」といった治療法でした。傷跡も非常に目立つため、手術を受けるには相当の覚悟が必要だったのです。
80年代になると細い管(カニューレ)で皮下脂肪を砕き吸い出してしまう「脂肪吸引術」が誕生し、脂肪切除術に比べて大幅にダウンタイムが短縮されたため、あっという間に普及していきました。
脂肪吸引の技術や麻酔方法もどんどん進化していきました。局所麻酔や止血剤を用いない「ドライ式」から大量の局所麻酔と止血剤を用いる「ウェット式」(ツメッセント法、チュムセント法とも)が主流になり、安全に施術できるようになりました。
また、カニューレで脂肪を砕きながら吸引する方法から、超音波を使って脂肪を溶かしながら吸引する方法が登場し、ダウンタイムの短縮に一役買っています。
さて、それでは脂肪吸引についてさらに知識を深めていきましょう。
この記事の監修医師ゴリラクリニック総院長 稲見 文彦
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経歴
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2000年東邦大学医学部卒業
東邦大学形成学科学科学教室入局
2003年大手美容形成外科入職
2008年京都分院長に就任
2015年ゴリラクリニック総院長就任
- 所属学会
- 日本形成外科学会 日本美容外科学会(JSAPS)
脂肪吸引のやり方

脂肪吸引の具体的な流れを説明しましょう。以下に記す流れは施術当日の流れとお考えください。もちろん先だってカウンセリングや契約、支払いなどの手続きがあることをご記憶ください。
基本的に脂肪吸引は
1.マーキング
2.消毒
3.麻酔
4.施術
5.ドレッシング
という工程で行われます。マーキングは施術の仕上がりを決める重要な作業です。脂肪の多いところや少ないところを油性マジックで身体に書き込み、それを参考に吸引を行います。これは立位で行うのが大原則です。
マーキングが終わると施術部位およびその周辺を消毒します。イソジンを使うことが一般的ですので体中が茶色になりますが、すぐにハイポアルコールで色を落とすのでご安心ください。
その後は麻酔を行います。全身麻酔の場合は意識がなくなるので、目が覚めた時には施術が終わっています。局所麻酔だけで行う場合や、局所麻酔と静脈麻酔を組み合わせる場合、硬膜外麻酔で行う場合など様々なバリエーションがありますが、それぞれに長所と短所があります。これについては後述します。
麻酔が効いたらいよいよ吸引を始めます。超音波を使って脂肪を溶かしながら吸引を行う方法、シリンジを使う方法、吸引機を使う方法、フェザーリング、クリスクロス…様々なテクニックが存在します。
これらは全て「より低侵襲に、より綺麗に」脂肪吸引を行うための技術です。脂肪吸引は「切開、吸引、チェック、縫合」の順で行います。切開は複数カ所に行いますが、それぞれ1㎝にも満たない傷です。吸引は脂肪量や部位によって異なりますが、30分から数時間にわたって行います。ある程度脂肪が取れた時点で、取り残しなどがないことをチェックし、問題がなければ傷を縫合して施術は終了となります。
施術後はドレッシング(消毒したり包帯を巻いたりする行為)を行います。施術の良し悪しを決める重要な工程です。
ここまで脂肪吸引の流れをざっと説明しました。次は脂肪吸引のテクニックをいくつかご紹介します。
【テクニック別】脂肪吸引のやり方

脂肪吸引には様々なやり方が存在しています。全てを説明することは難しいですが、代表的なバリエーションを解説していきます。
シリンジ法
すべての脂肪吸引のベースとなる方法で、50㏄の注射器(シリンジ)にカニューレを接続し陰圧を掛けながら吸引する方法です。全身あらゆる部位の吸引に対応できますが、脂肪がシリンジ内に満杯になる度に新しいものと交換しなければならないのが手間になります。
一方、吸引した脂肪を頬や胸などに注入する「脂肪注入術」を行う場合は、必ずこのシリンジ法で行います。古い方法ではありますが、現在も行われているのはこのような理由があります。
クリスクロス法
脂肪吸引する際に気をつけるべきことは「まんべんなく吸引すること」です。カニューレは扇形のように動かしていきますが、1か所からだけでなく複数カ所から吸引します。
この方法をクリスクロスcriss-cross法と言います(crisscrossとは「交差させる」「縦横に動かす」などの意味)。傷は増えますが、綺麗に吸引するためには不可欠です。
フェザーリング
フェザーリングロッドと呼ばれる棒を切開創から挿入し、脂肪を砕くテクニックです。脂肪吸引をしやすくしたり、段差を目立たなくしたりするのに用います。脂肪を「減らす」のではなく「ならす」方法と言えます。
体内式超音波法
超音波には脂肪を溶解させる働きがあるため、超音波を発するロッドを切開創から挿入し、脂肪を溶かしてから吸引することで施術時間とダウンタイムの両方を短縮することを狙ったのが体内式超音波法です。
最大の欠点は熱傷のリスクで、皮膚全層が熱傷を負うと皮膚壊死を起こし植皮術を受けなければならなくなります。
体外式超音波法
体外から超音波を照射することで、皮膚全体が熱傷を負うリスクを低下させたのが体外式超音波法です。とはいえ皮膚表面が熱傷を負う危険性はゼロではありません。
この後で登場するのが第3世代の超音波機器であるVASERです。
VASER脂肪吸引
超音波の一種であるVASER(ベイザー)波を用いた吸引法です。これまでの超音波式脂肪吸引に比べて皮下脂肪だけを遊離させることが可能なため、血管や神経を保護することができます。
これらの超音波機器は扱いに精通していなければなりません。ロッドを動かし続けなければ、やはり皮膚熱傷のリスクを伴います。
ボディジェット
ジェット水流により皮下脂肪を破砕し吸引する方法です。超音波式に比べると熱傷のリスクがないのが魅力的です。しかし、水分を大量に注入するため通常の方法より腫れが強く出る傾向があり、また脂肪の性状によっては破砕しきれず効果が乏しいこともあります。
脂肪溶解レーザー
脂肪吸引が数ミリのカニューレを挿入して脂肪を吸い取るのに対し、より細いロッドを挿入し先端から照射されるレーザー光を用いて脂肪を溶解させるのが脂肪溶解レーザーの仕組みです。
傷が非常に小さいのが特徴ですが、溶解した脂肪が減るのは自然の代謝によるため効果が現れるのに時間がかかる傾向があります。また溶かすべき脂肪がたくさんある場合は、効果に満足できない場合もあります。
麻酔の違いと脂肪吸引のやり方

脂肪吸引は痛みを伴う施術です。予定される施術時間や、痛みの程度によって麻酔を使い分けるのが一般的です。それでは、どのような麻酔があるのか解説していきましょう。
局所麻酔
すべての脂肪吸引のベースとなるのが局所麻酔です。前述の様々な脂肪吸引のテクニックも、局所麻酔なしには始まりません。吸引したい部位に、確実に正しく局所麻酔を注入することで痛みを生じることなく吸引が可能になります。局所麻酔薬(通常はキシロカイン)の他にエピネフリン(血管収縮薬)や炭酸水素ナトリウム水溶液を添加することが大半です。
局所麻酔で脂肪吸引を行うことのメリットは、脂肪吸引の「エンドポインド」を術者が把握しやすいという点です。吸引すべき脂肪が少なくなってくるとピリピリとした痛みが出てくるようになるため、過吸引を防ぐことができます。
また、施術後に速やかに帰宅できるのもメリットでしょう。デメリットとしては局所麻酔を注入している間は、かなりの痛みが生じるということです。このため多くのクリニックでは、静脈麻酔や全身麻酔を併用しています。
頬や首、またごく一部の範囲の吸引であれば局所麻酔で十分です。腹部全体や脚全体を吸引する際は、局所麻酔だけでは少し辛いかもしれません。
硬膜外麻酔
背骨の中には脊髄という神経の束があります。身体の各所で感じる痛みは末梢神経が感知し、脊髄を通って大脳に至り、そこで「痛み」として初めて認識されます。従って脊髄に麻酔を行えば身体の大半の痛みが分からなくなる、これが硬膜外麻酔の仕組みです。
具体的には、背中に予備の局所麻酔を行ってから硬膜外に至るガイド針を刺し、太さ1㎜弱の細い管を挿入します。この管から局所麻酔薬を注入して痛みを取り去ります。
硬膜外麻酔を行ってから吸引予定部位に局所麻酔を行うことで、局所麻酔の痛みや施術に伴う痛みをなくすことができるのがメリットです。ただし硬膜外麻酔を正しく行うには、専門的な知識やトレーニングが必要です。
医師であれば誰でも簡単にできる、というものではありません。麻酔科の医師が行うか、または麻酔科経験がある美容外科医が行うべきです。
全身麻酔
非常に侵襲が強い手術、例えば脳外科手術や腹腔内の手術などは全身麻酔で行うことが必要です。脂肪吸引はそこまで侵襲の強い手術ではありませんが、全身麻酔で行うことで全く痛みを感じることなく施術を負えることができるのが最大のメリットです。
ただし全身麻酔そのものにリスクがあります。麻酔による死亡事故が実際にあったことを忘れてはいけません。全身麻酔は麻酔科が行うべきですし、もちろん入院が必要です。
静脈麻酔
全身麻酔は完全に意識と痛みを消失させますが、一方で呼吸もできなくなるため人工呼吸が必要になります。麻酔は気体ですので挿管チューブを用います。
一方、静脈麻酔はその名の通り静脈から麻酔薬を注入します。麻酔薬と麻酔法の進歩により意識と痛みは消失させ、自発呼吸は保ったままにすることも可能になりました。まさに脂肪吸引にもってこいの麻酔法と言えます。
しかし静脈麻酔であってもリスクがあることは把握しておくべきです。呼吸抑制が強い場合は挿管(口から気管に管を入れること)する場合もあります。
アフターケアのやり方

脂肪吸引の仕上がりを決めるのは施術だけではありません。施術後のアフターケアが結果を左右すると言っても過言ではないのです。
基本的には担当医の指示に従うことが大切ですが、どのような内容なのでしょうか。解説していきます。
安静を保つ
少なくとも施術後2-3日は大人しくしていましょう。指示を守らず活動しすぎると腫れが増したり出血したり、様々なトラブルが起こる危険性があります。
再診を受ける
施術翌日の包帯除去、7日後の抜糸、1か月後の様子見せは必ず行くようにしましょう。担当医やクリニックによって違いがあるかもしれません、その際はその指示に従うことが重要です。
抜糸が早すぎれば創が開く可能性があり、また遅すぎれば糸の跡が残ってしまう可能性があります。遅くとも10日後までには抜糸を受けましょう。
圧迫を続ける
しっかりと圧迫できる衣類を使いましょう。脚であれば弾性ストッキング、腹部であればボディスーツ、二の腕であればサポーターなどがお勧めです。圧迫できなければ意味がないので「これでいいのかしら」と不安な方は担当医に相談されることをお勧めします。クリニックで販売している場合もあります。
圧迫は腫れのピークを抑える目的と、脂肪吸引後の皮下組織を押しつぶし固定する目的があります。スポンジを押しつぶすとペチャンコになりますよね、これと同様です。
マッサージを受ける
腫れのピークが過ぎたら、今度は逆に適度の運動をお勧めします。代謝を促し腫れと内出血斑を速やかに回復させましょう。
施術部位を適度にマッサージすることも有用ですが、無理しないことが大切です。
正しい生活を送る
脂肪吸引によって得られるのは「局部のスリム化」です。身体のあらゆる部分の脂肪を減らせるわけではありません。
よって運動不足や食べすぎが続けば間違いなく体重が増えてしまいます。脂肪吸引したからといって安心せず、生活全体を改めるよう気をつけましょう。
脂肪吸引以外に「ラクに痩せられる方法」って?

ここまで脂肪吸引のテクニックや麻酔の種類について説明してきました。ここから先は「ポスト脂肪吸引」とも言える、最新の「医療痩身」について解説していきます。
ゴリラクリニックでは脂肪吸引とは違う3つのやり方で医療痩身を行っています。
GLP-1
GLP-1(ジーエルピーワン)は食事をすることで小腸から分泌されるホルモンの一種です。食欲を抑える効果があり新しいダイエット法として最近注目されています。もともとは2型糖尿病の治療薬で、血糖を下げる働きがあります。
GLP-1は自己注射する薬剤です。1日に1回の注射を行いますが、使用する針は極細なので痛みはほとんど感じません。胃がムカムカする、胸やけがする等の副作用が出る可能性がありますが、非常にラクにカロリー制限ができるためリバウンドを繰り返してきた方、どうしても食事制限ができない方に向いている治療法と言えます。
クールスカルプティング
クールスカルプティング®は冷却脂肪溶解(Cryolipolysis)理論に基づいた痩身治療法です。脂肪細胞が他の細胞より低温の影響を受けやすいことを用いて、脂肪細胞をアポトーシス(細胞死)に導きます。簡単に言えば「皮膚は凍らないが脂肪は凍る」ような温度で冷やし続けることで脂肪を減らす方法です。
機械で冷却している間は安静に保つ必要がありますが、数十分ベッドで横になっているだけで施術は終わります。施術後のマッサージが若干痛いようですが、施術自体はまったく痛みがなく非常にラクな方法です。治療効果は1ヶ月程度で実感できます。
エムスカルプト
エムスカルプトは高密度焦点式電磁(HIFEM)機器を用いた痩身治療です。今までの痩身治療機器が脂肪の減少をもたらすのに対し、エムスカルプトは筋肉の増大や筋力アップを可能にした点が非常にユニークです。皮下脂肪を減らす作用もあるため、腹部のシェイプアップに適しています。
施術中は独特の違和感がありますが、激しい筋肉痛を起こすことはなく30分程度寝ているだけで施術は終了します。効果が現れるまで4回程度の施術が必要になります。もちろん回数を重ねた方が、より効果が実感できると言えます。
脂肪吸引とメディカルダイエットの違い

脂肪吸引とメディカルダイエットには、それぞれ長所と短所が存在します。自分に適しているのはどちらの方法なのか、下の表を見た上で考えてみましょう。

ゴリラクリニックが提供するメディカルダイエット(医療痩身)は、患者様のニーズに合わせ最適な方法を医師が選定します。痛みやダウンタイムがほとんどない方法ですので、仕事に影響をきたすことなく、楽に行うことができるのが最大の特徴です。
最後に
非常に様々なテクニックがある脂肪吸引。技術の進歩により安全に綺麗に仕上げることが可能になってきましたが、やはり医師の腕前が結果を左右することは間違いありません。契約を結ぶ前にいろいろなクリニックでカウンセリングを受け、信頼できるドクターに出会えるよう努力することをお勧めします。
脂肪吸引の結果を左右するもうひとつの要素が、麻酔です。正しく局所麻酔を行うことができなければ、満足のいく結果は得られません。全身麻酔や静脈麻酔はリスクを伴う麻酔法です。麻酔科医がちゃんと麻酔をしてくれるか、ここはチェックすべきポイントです。カウンセリングの際に尋ねてみることをお忘れなく。
より低リスクに、楽にダイエットを行うのであれば最新の医療痩身という選択肢もあります。脂肪吸引に比べると歴史は浅いですが、「ポスト脂肪吸引」の有力候補と言えるでしょう。
この記事の監修医師ゴリラクリニック総院長 稲見 文彦
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経歴
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2000年東邦大学医学部卒業
東邦大学形成学科学科学教室入局
2003年大手美容形成外科入職
2008年京都分院長に就任
2015年ゴリラクリニック総院長就任
- 所属学会
- 日本形成外科学会 日本美容外科学会(JSAPS)












