【廃棄処分問題】恵方巻の余りを捨てる前に読みたい、恵方巻生産工場のバイトをしたときのお話 ~ 終わらない仕込み地獄

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文:星野藍
グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。

それは、いつから流行りだしたのだろう? 気づけば2月になると、一斉に、そして大々的に売り出されていた。コンビニで、スーパーで、デパートで、寿司屋で。

恵方巻き。

最近では正月が終わった直後どころか、クリスマスが終わってすぐに、予約開始のポスターがスーパーなどで貼られていたりする。

出典:shutterstock

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恵方巻きの食べ方は特徴的だ。太巻きを一人一本ずつ準備し、その年の恵方を向いて願い事をしながら黙々と最後まで食べる。縁や福が途切れないように、包丁で切ってはいけない。ちなみに今年の恵方は南南東やや南(32方位でいうと南微東やや東)だ。

恵方巻きの起源や発祥については諸説ある為定かではないが、コンビニで初めて売り出されたのは1983年大阪と神戸での限定販売が最初だそうだ。元々は九州の文化で、大阪に移り住んだ九州の人たちが恵方巻きを食べていた事が広まっていったとも聞いた事がある。

私の地元福島ではそんな文化は当然なかった。しかし近年の恵方巻きブームのお陰で、スーパーやコンビニなどで手軽に買う事が出来る。

好奇心でやってみた『恵方巻生産工場のバイト』

さて、その恵方巻き。私は嘗て恵方巻きを作るアルバイトに参加した事がある。

「何か面白い事ないかな……。面白い事でお金も稼げちゃったりしたら、より一層幸せだな……。」

実に俗物的な軽率な考えで、自分はレアな単発アルバイトはないものかと検索をかけた。そしたら……

「あ、これだ!」

恵方巻きの調理補佐。年に一回のレアバイトじゃないか? もしかしたら、恵方巻きをくるっと巻いたり出来るかもしれない! やだ楽しそう! 行ってみよう! 浅はかでおバカで愚かな私は、こうして恵方巻きを作るバイトに応募した。

 

関東某所、住宅街にて

関東某所、夜21時。寒さ極まる2月1日。

私は食品工場へと向かっていた。閑静な住宅街を抜け、本当にこんなところに食品工場があるのだろうか……? 疑わしく思っていたが、それはきちんと存在していた。入り口が非常に分かりにくく、タバコ休憩をしていた職員さんに話しかけ教えていただいた。

レクリエーション室に案内され、まずは書類の記載から始める。単発アルバイトにあたり必要な書類だ。

業務の説明、衛生管理について。全身をしっかり覆う白いツナギのような服に髪の毛をすっぽり覆い隠す帽子。マスク。耐滑加工がされた作業靴。

出典:shutterstock

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手洗いはブラシを用いてしっかりと、そしてアルコール消毒。その上から薄手のビニール手袋を装着する。

さぁ、いざ食品加工の現場へ……!

 

嫌な予感

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調理場までの道のりはそこそこ長い。

靴を履き、手洗い場で手を洗い扉を開け、風が双方から出てくる空間でほこりを落とし、さらにその扉の先に存在する。学校給食の調理場を更に大きくしたような、古くはあるが手入れの行き届いた場所だった。

単発アルバイトのメンバーは私を含み合計3人。本当は4人だったが1人連絡がつかず、就業時間を過ぎても姿を現さなかった。バックレだ。

現場には料理長、社員が2人、定期アルバイトが1人。私たち素人バイトを見るなり、料理長はあからさまに不機嫌を露わにした。どうやら作業工程がだいぶ遅れているらしい。

「はぁ、1人来なかったの!? 昼間も来なかったのに!」

昼間もバックレがいたらしい。

「まぁいいや。何やって貰おうかな……。」

一頻り怒ると料理長の思考は次へと移ったようだ。冷凍庫から大量の食材を取り出す。エビ、かんぴょう、卵焼き、しいたけ、でんぶ、などなど……。

「よし、君これやって! A君一緒にやって!」

料理長の威勢のいい声が響く。私は定期アルバイトのAさんと共に、まずはエビの仕込み作業からする事になった。

「宜しくお願いします。」

Aさんは、とてもいい人だった。

「何処から来たの?」
「〇〇です。」
「随分遠い所から来たね! なんでまた。」
「いやぁ、恵方巻きの制作現場を見てみたくて。」
「そりゃいいや、あはは!」

Aさんは昼間自営業を営んでいるが、この時期は暇で収入面が不安なので食品工場のアルバイトもしているとの事だった。

「今日俺、13時から働いてるんだよね。」
「え、大丈夫ですか、今23時ですよ?」
「一応2時あがりって事にはなっているから。……でも今日は、残業するかもしれない。」

何やら、嫌な予感しかしない。

 

恐怖!『エビ地獄』

パック詰めされた蒸しエビを、まずは解凍しなければならない。蒸しエビは、寿司屋のネタで使われるあの蒸しエビだ。業務用のものはパック詰めで売っている。

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とても大きなボウルに蒸しエビパックをばさばさ詰め、一気に水を出す。解凍された頃合いを見て引き上げ、次の工程へと入る。

「まずはエビを酢〆にするんだ。」

パックからエビを出し、大きなアルミ製のバットに綺麗に詰めていく。そこに酢をドバドバ投入し、エビを浸す。このまま30分ほど浸す。これが蒸しエビパック200袋以上あるのだ。パックを開けても開けても、エビを浸しても浸しても、終わる気配がしない。

「こ、これ終わるんですか……?」
「分かんない……。」

時間はすでに午前2時を回っていた。Aさんは呟いた。

「俺はいつ帰れるんだろう。」

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午前3時。15分だけ休憩時間があった。レクリエーション室の椅子に座り少しだけぼんやりとする。が、そう休んでもいられない。手洗いや支度の時間もある、早々に椅子を立ち調理場へと向かった。大丈夫、休憩は合計1時間。次は45分の休憩があるはずだ。

別な単発バイトさんは、ひたすらかんぴょうの仕込みに追われ、もう1人の単発バイトさんはひたすらきゅうりを切っていた。きゅうりの彼は料理長の顔なじみというか何回もこの食品工場でバイトをしているらしく、料理長に「よっ、1日ぶり!」と声を掛けられていた。……前日もやっていたのか。

しかしその料理長の怒声がわんわん響く。先ほどから社員の1人がターゲットのようになり集中砲火で怒鳴られているようだった。

「ごめんねぇ、調理って職人の世界だからさ……目下の人間にどうしても厳しくなるんだよね。」

Aさんが私に微笑みかける。殺伐としたこの現場で唯一の良心だ。私たちは引き続きエビの仕込み作業に取り掛かった。200袋以上の酢〆をなんとか4時半までに終わらせた。そう、もう4時半だ。Aさんはすでに15時間半労働になっている。

「今日、11時から取引先に行かなくちゃならないんだけどなぁ……。」

悲痛な叫びは料理長に届かない。バットの酢を捨て、今度はエビをひとつひとつ、網目のあるバットの上に並べていく。実際に巻きの作業を行う人が作業を行いやすくする為との事だった。一枚一枚丁寧し、しかし迅速に。

「エビまだ終わってないの!? Bさん、そっちいいからエビやってエビ!」

料理長の苛立ちはヒートアップする。そんなに苛立っても仕方ないのに、と思う自分は彼からしたら“甘い”人間かもしれない。集中砲火で怒鳴られ続けている社員、Bさんもエビの仕込みへと入る。

バットに並べても並べても、一向に減る気配のないエビ。エンドレス蒸しエビ。延々と続く単調作業。時間の感覚が本当に狂っていく。気がつけば朝の6時15分になっていた。

「はーい短期アルバイトの皆さんはあがってくださーい。」

料理長の軽快な大声。

「え、終わってないけど大丈夫ですか。」
「大丈夫いいから早くあがって!」

Bさんが苛立ちめに私を急かす。

「大丈夫だよ、お疲れ様!」
「Aさん!」
「俺はいつ上がれるかなぁ……あははははは。」

Aさんが一体何時にあがれたのかは、知る由もない。

 

ブラックバイト?

料理長や社員に急かされ、私たち単発アルバイト組はレクリエーション室へと戻って来た。

「お疲れ様です。」

無表情で、紙のような顔をした社員が現れた。彼女もまた疲れているのだろう。

「今から45分休憩してから帰ってください。」
「え、もう業務終わっているから帰っちゃダメなんですか。」
「規則なので。」

23時から朝7時までの勤務。休憩時間1時間。3時に一度15分休憩を取っている。ここで45分休憩すれば就業時間終了の7時になる。それなら、4時とか5時に休憩取らせてくれても良かったんじゃないか……? 仕事が終わったらすぐ帰りたい。なんて非合理な事をさせるのだろう。

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ぼうっとしていると、朝7時から勤務に当たる外国人アルバイトたちが入ってきた。しっかりと日々のシフトをこなしているアルバイトたちらしく、皆親しそうに喋っている様子だった。ベトナム人、韓国人、中国人。アジアの民が雑多に集う。そして時間になると一斉に調理場へ向かって行った。

 

恵方巻きを取り巻く現状

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朝焼けが眩しい。ぽくぽくと、駅までの道のりを行く。

疲れたな……。

恵方巻き巻けるかななんて思ったけど、結局エビの仕込みしかしなかったや。恵方巻きの大量廃棄が話題になったのは、記憶に新しいだろう。

近年クリスマスケーキやおせち料理、恵方巻きなどの食のイベントが嫌という程宣伝されている。12月25日、夜になってもコンビニで売れ残るクリスマスケーキを見ると、心が傷むものがある。

もったいないな、と心底思う。ものを作りすぎて、ものを売りすぎて、それに消費が追いつかない現状があるのではないだろうか。友人の中には今の日本のこうした季節の便乗商法の趣のなさに「嫌気が差している。絶対買いたくない。」と答える者もいる。

調理の現場を少しだけ体感して思う。作ったからには売れてほしい、捨てられるのはとても悲しい、と。(正確には“作って”はいないのだが。)

適度な製造・販売・消費。それらが適正・正常に行われる日は、日本には来るのだろうか。

ライター :星野 藍

星野

グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。
2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。廃墟の他怪しい場所やスラム街、未承認国家にソビエト連邦など、好奇心の侭に国内外を縦横無尽に徘徊する。

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