【儲け話は疑え】マルチ商法って意外と身近にある……? ネットワークビジネスの説明会に行ってみた時のお話

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文:星野藍
グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。

ネットワークビジネスによって壊れた友情

出典:shutterstock

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ネットワークビジネス。聞こえはいいかもしれないが、それはマルチ商法の事だ。

マルチ・レベル・マーケティング・システム(multilevel marketing system)の略称で、販売員が販売会社に一定額を投資し権利を取得し、会社から購入した商品を直接小売する利益と、新販売員を勧誘し会社から紹介料と商品卸による中間マージンの利益を受け儲けるスタイルのビジネスだ。

勧誘目的である事を告げず食事に誘ったり、絶対儲かるなどの誇大表現を使い強引で迷惑な勧誘を行ったりする為通常は煙たがれる事が多い。

例えば30万円のローンを組んでマルチ商法の会社の会員になって、その下に勧誘して2人の会員を作る。その2人がさらに2人の会員を作り、そしてまた更に2人の会員を作って……というのを繰り返す事で儲けが出る、という事だ。一見シンプルだがまさに絵に描いた餅のようなビジネスだ。普通誰が好き好んで何処の馬の骨かも分からない30万もの借金をわざわざ背負いこむだろう?

斯く言う私も、嘗て友人Aからマルチ商法の勧誘を受け断った口だ。

夢や将来について“ビジネス”という言葉をやたらと交え、異様にキラキラとした漆黒の瞳でポジティブに語る様子に違和感を覚えた。これはまずいのではないかと周りの友人にも相談したが結局Aの暴走は止まらず、この件でAは多くの友人からの信頼を失う事となったのだ。そして私はAに何故か逆恨みされた。

詳しく書いてしまうと他者のプライバシーにセンシティブに関わる問題となるのでやめておくが、この経験から私の中のマルチ商法に対する不信感はより一層強いものになった。

 

某掲示板サイトにて

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あれから数年後。ある日友人Bが楽しそうに話してきた。

「なんか、某掲示板サイトでマルチのパーティーとか説明会の参加者募集あるみたいだよ」

そのサイトは、全国各地の地域に密着した掲示板サイトだ。誰でも簡単に地元の情報を発信したり、中古販売や求人情報、オフ会情報まで兎に角様々な情報を入手する事が出来る。

「有名マルチ商法の会社のパーティーにここから参加した人もいるみたい」
「マジで!」

当時自分にとってそのサイトは”引越しの際いらない家具を引き取ってくれる人を募集するのに便利なサイト”くらいの認識しかなかったので、まさかマルチの温床(?)の側面があるとは思わず衝撃を受けた。

「それ、ちょっと面白いね。私突撃してくる」
「え、ウソ!」

これは実際自分の目で確かめてみないと気が済まない。

マルチ商法。友人Aを盲目にさせたその実態は如何なるものなのか? 実際にマルチ商法にハマる人間とはどのような人種なのか。この目で見てみようではないか。

 

早速某掲示板サイトでマルチ商法のパーティーや説明会を探し出す。検索ワードに“それっぽいワード”を入力すると、一発で出てきた。ダイレクトに“マルチ”や“ネットワークビジネス”ではまず出て来ないので注意だ。ふわっとした説明しか書かれていないが、まずこれはマルチ商法の説明会と見ていいだろう。

早速担当者にコンタクトを取る。返信はすぐに届いた。説明会は毎週行われているらしい。都合のいい日にちを送り、予定を詰める。やりとりは全てサイト内で行えるのでこちらのメールアドレスが相手に伝わる事もない。無事日取りなどが決まり、相手に名前を問われたので仮の名を伝えた。

「洗脳されないように気をつけてね」

とは言うものの友人は大して心配している素振りもない。

「ふふ、帰ってきたらいきなり洗剤売り出すかもしれないよ」

 

いざ、説明会へ

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説明会当日。駅前で担当者と待ち合わせをし、説明会会場へと向かった。担当者は黒いスーツ姿の至って普通の女性だった。普段は劇団員をしており複数のアルバイトをしながら生計を立てているそうだ。

「今日はよろしくお願いします」

これまた至って普通のオフィス街。仕事以外でこの街に訪れる事が果たしてあるのだろうか?平日昼間はビジネスマンが行き交い賑わっているだろうが、休日のその街は静まり返っていた。

「普段はお仕事何されているんですか?」
「あ、今ちょっと会社やめたばっかりで、仕事を探しているんです。本業の他で何か出来ないかなーって思って探していたんです」

勿論嘘だ。

「そうなんですね。こういった説明会に参加するのは初めてですか?」
「はい、初めてです」
「海外ビジネスには前から興味があったんですか?」
「いえ、今回お見かけして興味を持ちました。実はよく分からないんですけどね」
「あはは、そうですよね。私も最初はそうでしたよ」

そう、当たり前だがネットワークビジネスとは書かず“海外ビジネス”というぼんやりとした言葉をその会社は使っていた。実際海外から日本に入ってきた会社なので海外ビジネスという言葉は強ち間違いではないのだが。

説明会会場はその会社の本社内にあった。何の変哲もない小綺麗なオフィスビルのエレベーターを上がると、中は異様な熱気に包まれていた。エレベーターの扉が開いて目の前には受付カウンターのようなものがあった。

「お疲れ様です」

受付嬢らしき女性に担当者が会釈をする。奥に入るとすぐにその会社の取り扱う商品のディスプレイと体験コーナーがあり、その脇に説明会会場、反対側には仕切りで区切られた個別で話すスペースが幾つか設けられていた。何組か勧誘をしている・されているようなグループが見受けられた。

「説明会までまだ時間があるので、よかったら商品を試してみませんか?」

その会社は、海外の化粧品、スキンケア商品を取り扱っているようだ。

掲示板サイトでの募集要項では漠然とした事しか書かれていなかったので、漸くその正体を知った感じだ。体験コーナーの椅子に座らせられ手の甲にパックを塗って貰う。

「W社って化粧品会社はご存知ですか?」
「はい」
「W社は売り上げを●●円を超える世界最大規模の会社なんですけど、弊社はW社が全面バックアップしているんです」
「そうなんですね」
「Z社さんなどの百貨店でも取り扱いはあるんですが、メインは口コミでの販売なんです」
「へー、なんでですか」
「やっぱり口コミだと実際使っている人の話を実体験として直に聞きながら確かな情報で買える安心感があるじゃないですか。日本に入ってきたのは最近ですが、韓国ではもう●年前から人気なんですよ」
「韓国、美容系強そうですもんね」

会社についての説明をしながら、塗ったパックを水で洗い流して貰う。

「もう片方の手の甲と比べてみてください」
「ちょっと白くスベスベになった気がします」

正直余り変化は感じなかったのだが、回答としては及第点だろう。隣でも別の担当者に手の甲にパックを塗られている女性がいた。

「今パックを塗っている女性はCさんと言って、私たちのリーダーなんです。Cさんは普段主婦をしていますが、今でこそ安定した幸せな暮らしがあるけどすごく苦労されたんですよ」
「そうなんですか」
「家がない時代もあって、下水道の中で生活していた事もあったそうです」
「え、マジですか」

流石にそれはヤバくないだろうか。

「Cさんは肌もボロボロだったんですが弊社のスキンケアに出会って肌もすごく綺麗になったんです」
「へぇ、すごいですね」

文字に起こすと淡々と感情が篭っていないように見えるが、実際この時の私は目をキラキラと輝かせる純粋で夢と希望に溢れる女性会社員を見事に演じきっていたに違いない。

 

勧誘は身近なところで

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説明会10分前になり、会場の席を取ると若い女性が担当者と私に話しかけてきた。

「こんにちは!」

彼女は担当者の後輩で、同じ劇団で劇団員をしているそうだ。(そこ、誘っちゃったんだ……)と、内心私は思った。

「担当者さん、お疲れ様ですー」

別な女性が現れた。彼女も担当者の後輩で、やはり同じ劇団で劇団員をしているとの事だった。(その劇団、温床すぎないか大丈夫か)

彼女はこの日、田舎から母親を連れてきていた。

「母に話したら興味あるっていうので連れてきたんです」
「パパに言わないで来ちゃったけどね、うふふっ」

(それアカンやつじゃないのか!)

担当者の今後の人間模様が若干心配になりつつ、説明会は始まった。

 

説明会からの勧誘

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会場の席は30席くらいだろうか。全て埋まり満員御礼の中幕を開けた。

(この中でサクラは何人いるのかな)

まずは上層部らしき女性社員による会社の歴史、創業者についての説明から始まった。続いてスキンケアに大切な事とは何か、それに必要なものがこの会社の商品に含まれているという事。商品の成分、効能の説明、他社製品に含まれる成分の危険性、商品ラインナップ、使い方。

そして女性会社員自身のサクセスストーリー。この会社に出会う前は何をしていてどうだったのか、そして現状はどうなのか。拍手喝采で女性社員の説明は終わり、続いて若手男性社員へとバトンタッチする。

男性が嘗て所属していた会社での酷い待遇、そして今この会社に出会ってからの羽振りの良さを歯切れよく語っていく。前の女性もこの男性も、今自身の金回りが良いかという事を強くアピールしている。

そして、このビジネスについての具体的な説明。

一般的なネットワークビジネスと違って儲けを出しやすいという事。それがどういう事であるという図解付きの説明を行っていく。(具体的な内容は特定に繋がる為避ける事をお赦し頂きたい)しかし私からすれば、他のネットワークビジネスと何ら変わりがないように見える。

モチベーションを維持しやすい報酬制度である事。日本に入ってきたばかりという事はチャンスであるという事。(しかし後から調べると、入ってきたのはその3年前なので入ってきた“ばかり”と言っていいものか疑問だ)巨大マーケットである中国に参入する事により今後より一層大きなチャンスを手に出来るという事。

ビジネスを始める為にはまず商品を一括で購入しなくてはならないが、会員割引が効くので非常に安価で購入出来るという事。しかしそれでも10ウン万円飛ぶ事になる。そんな出費はすぐに回収出来るというが果たして……?

このネットワークビジネスに参入する殆どが普通の主婦だが、普通の会社員も多いという。そして優秀な実績を収めた者はこの会社の正社員になる者もいるという。

一通りの説明を聞き終え、担当者が私の元へやって来た。

「どうでしたか?」

ああ、ここからが勧誘のフェーズなんだな。

「そうですね、とても魅力的な話だと思います」
「そうでしょう! 私も普段劇団の活動があるので、どうしてもアルバイトでしか稼げなくて。だからこそこのビジネスはとても大きなチャンスで魅力があると思います。日本に入ってきたばかりという事はまだ始めている人も少ないし、これから中国に参入する事でより一層大きなマーケットになっていきます。W社が全面バックアップしているのも安心です、こんなビジネスなかなかありません」

キラキラと光のない瞳で私を見つめる担当者。

「ですよね、私の知人でも劇団員さんいるけどやっぱり大変そうだなぁって思います。でもごめんなさい、初期費用の事もあるからまずはやっぱり夫に相談してみなくちゃ……」

気まずそうに俯き、ちらりと担当者を見やる。

「そうですよね……分かりました」
(え、いいんだそれで)

この担当者はまだ月日が浅いのか慣れていないのか、拍子抜けする程あっさり開放してくれた。
「今度は是非旦那さんも連れて来てくださいね。実際に見たらきっと納得してくれます!」
「ええ、今日は貴重なお時間をありがとうございました」

私を見送る時の目が悲しそうだった。私より年下の女性だった。まだ、始めて3ヶ月だと言っていた。

 

人の心の弱さに付け入るビジネス

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その後一度だけ担当者からwebサイトを通して連絡が来たが、これと言って返信をしなかったのでそのまま終わった。私はたまたま押しの弱い担当者に当たっただけだったかもしれない。

数ヶ月後、友人と喫茶店でパフェを食べていたら偶然向かい側の席でマルチ商法の勧誘をしている現場に出くわした。カモになった大学生らしき女性、紹介したのであろう大学生らしき男性、そして勧誘を行う担当者男性。

やはり変にポジティブなノリで夢や将来を絡めた意識の高いビジネスの話を展開し、契約まで持って行こうとするが「親と同居しているので、まず親に相談しないと何とも言えません……」という女性に結局折れ担当者は連絡先を伝えた上で帰って行った。

残された大学生らしき2人は「えー……やっぱり高いよ」「でも今ここでビジネスを始めれば将来的に大きなチャンスに繋がるんだよ」「でも……」などとグジグジ話していた。

マルチ商法の勧誘をする人々は、総じて皆同じ瞳をしている。異様にキラキラと輝いてはいるのだが、その奥底が漆黒で何も見えない。マットブラックで、何も映っていないのだ。ポジティブなテンションでビジョンを捲し立てはするもののそれも漠然としていて実態が見えない。

笑顔とは裏腹に募る不信感。

しかし彼らが何故そうなっていったか、これも総じて金銭面での苦しさ故だろう。どう転ぼうと変えられない現状、それを打破するには革新的な“何か”が必要だった。その何かが、マルチ商法になってしまった……。

大体そんな簡単な儲け話を赤の他人に普通はするものだろうか?私だったらその儲けを如何に独占するかという事ばかり考えてしまうような気がする。

担当者の女性や友人Aがマルチ商法に手を付け、友人知人や様々な人を勧誘した先で果たして幸せになれたのか、私には分からない。

私に出来る事は、心の隙に浸け入れられる事のないよう強く生きる事のみだ。

ライター :星野 藍

星野

グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。
2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。廃墟の他怪しい場所やスラム街、未承認国家にソビエト連邦など、好奇心の侭に国内外を縦横無尽に徘徊する。

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