【企業の幸せより自分の幸せ】広告代理店の闇に学ぶ ~筆者がブラック企業で心と体を壊した時のお話~

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文:星野藍
グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。

嵐の前の静けさ

出典:shutterstock

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12月、読んで字の如く師走、そては慌ただしく過ぎ去る一年の締めくくり。例に漏れなく私も毎年ここぞとばかりに詰め込みスケジュールの12月を送っている。

しかしその慌ただしさは何とも心地良いもので、充足感を噛み締められるものとなっている。そんな風に思える日々を送ることになるとは、あの頃は思いもしていなかった……。

“あの頃”。

年末になるといつも思い出すのが、広告業界に身を置いていた頃の事だ。12月15日頃だったろうか。その日も例によって夜遅くまで残業していた時だった。夜も更け行こうとする22時、社内に電話のベルが鳴り響いた。

(こんな時間に、誰だろう……?)

考える迄もなく、そんなものは“彼ら”しかありえない。

「はい、株式会社●●です」

電話を取ったのは社長だ。何故こんなに遅くまで残っているのだろう? この人はそこまで残るような仕事はしないはずだ。

「はい、お世話になっております」

明るく対応する社長。

「はい、はいはい」

社員一同に張り詰める独特の空気。これは嵐の前の静けさだ。

「はい、勿論大丈夫です」

ああ、来るな、地獄が。そう、予想通りこれは地獄の始まりだった……。

 

デスマーチの足音

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その電話は、某大手広告代理店からのものだった。華やかなように見える広告業界は、見た目とは裏腹に仕事は過酷だ。毎日が戦場。休まる時など殆どない。深夜残業午前様、連日徹夜も当たり前、残業代など勿論出ない。パワハラ、セクハラは最早“ご愛嬌”。ライフワークバランスなど遠い異世界の神話のようだ。

電話内容は、とある業界のカタログコンペの依頼だ。複数の広告代理店が参加し、その中で最も優れたデザインのカタログが採用され本製作となっていくのだ。

正直私はコンペ形式の仕事が嫌いだ。報われない理不尽な事も多いし、そもそもコンペ自体が出来レースというケースも多々存在する。だが、会社が受けた仕事である以上断る権利は下々のデザイナーにはない。ただただ従順に取り組むのみだ。

翌日、早速某大手広告代理店からのアートディレクターが打ち合わせにやってきたのだが、時間はなんと23時。

(え、ちょっともう帰りたいんだけど……)

打ち合わせ対応は上司であるアートディレクターが行うが、彼曰く「とりあえず何があるか分からないから打ち合わせが終わるまで待機してて」

(マジか……!)

普段禁煙であるはずの事務所内で、上司は何故か広告代理店ADに灰皿を渡す。狭い事務所にもくもくとタバコの煙が立ち込める。タバコの臭いは正直嫌いだが寒いので窓も開けられない。1時間ほどで切り上げてくれる事を願っていたが、彼が帰って行ったのは朝の4時だった。

タクシーで一度家に戻りシャワーを浴び、1時間ほど仮眠を取り再び事務所へと向かう。上司やコピーライター、デザイナーたちでコンペに向けカタログの案を複数出し合う。昼から夜にかけ案を出し、そして制作に入っていくのだが、当然誰も帰る気配はない。

電話が来たのが月曜日、打ち合わせをしたのが火曜日、案を出し制作に入ったのが水曜日。コンペは翌週月曜日。10ページ以上3商品3種類のカタログ制作にしては納期が短い。扱う商品が商品なだけにクリエイティブに一切力は抜けない。それぞれの商品コンセプト、複数のイメージビジュアル、キャッチコピー、商品詳細ページ。全てにおいて力を注ぐ。

必然的に土日の休みはない。それどころか睡眠時間もない。仮にコンペが通ればカタログの本制作へと入る。そうなると年末の休みは返上だ。

 

広告業界への疑問

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正直私はこの仕事に最初から乗り気がしなかった。というかこの時既に広告業界自体に嫌気が差していた。

夢中になれるものを見つけてしまったのが一番の原因だったのかもしれない。自分の時間を費やして、自分の感情を殺して、身も心も削り果てて仕事をした先に何があるのだろう?

広告という捨てられる事が前提のものを作り続ける事に何の意味があるのだろう? 誰も見向きもしない何も残らないものを作るという事に、果たして何が?

「良い広告は人の目を引くし人の足を止めるし、心に残る」そんな御託はどうでもいい。自分と広告の現状に疑問に抱いた時、私は広告という仕事が出来なくなっていった。

年末撮影に行く事は伝えていたが、上司は私に言った。

「前にいたデザイナーは、海外旅行の予定があったけど仕事があるからキャンセルしたんだ。10万円以上払った金は戻ってこなかったけどそれがデザイナーだから。それが当たり前だからこの業界。

仕事の都合で親の死に目にも会えないかもしれないし葬式に出られないかもしれないし、自分の子供が病気になっても側にいてやれない。

まぁ君にそうしろとは言わないし、仮にコンペが通ったとしてもまぁなんとかなるだろうから撮影に行ってもいいけど、よく考えてみるといいよ?」

「分かりました」

彼はきっと私に、仕事を選択させるつもりでいたのだろう。

「撮影行ってきますね!」

火曜日から翌週月曜まで殆ど眠れなかった。家に帰ってもシャワーを浴びてすぐ事務所へトンボ帰り。

広告代理店ADも事務所に夜中まで滞在してはタバコをバカバカ吸いながら我々デザイナーのクリエイティブをチェックする。息が詰まるのはタバコの煙か、それともまるで監視されているかのような圧迫感からか。

身も心も睡眠時間も削りつくした末にコンペは通ったが、何も嬉しくなかった。徹夜続きで仕事をする事は何もこれに限った事ではない。よくある話、当たり前の話、当たり前の日常だ。

でもそんな“当たり前”なら私はいらない。何ならもっと酷い事態がやってくるかもしれない。仮に病気になったとしても、会社は何も手助けなどしてくれないだろう。

ああ、もうこれ、ダメなんだな。もうここにいられないんだな……。

きっとそれが、広告命で広告人生と信じて疑わない盲目的広告デザイナーだったら何ともなかったかもしれない。

暴言を吐かれても、セクハラをされても、精神的に追い詰められても、家に帰れなくても、プライベートがなくても、それを充実感溢れる充足した時間と感じられる人間だったら。もしくは何の自己も持たない流されるがままの人間だったら。この先も広告デザイナーであり続けられたかもしれない。

 

そして私は鬱になった

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年明け、私は上司にコンコンネチネチと嫌味を言われた。その嫌味は、それから私が仕事をやめる半年先まで続いた。

結果的に私は長時間労働、パワハラ、セクハラなどなどによりうつ病になったが、上司曰く「社長に言わない方いいよそれ、うつ病とかメンタルヘルスがどうとかあの人大嫌いだから。うつ病ですなんて言ったら即クビにされるよ」。

及び体調を崩した事により今後徹夜がどれだけ出来るか否かの答えを求められ、1ヶ月以上徹夜が難しいと判断された事により自主退社を促された。会社から「お大事に」「体調が良くなるまで休んでね」など労いの言葉は一切なかった。

ボーナスの時期に合わせて辞めようとしたら社長曰く「ボーナスとは辞める社員にあげるものではなく、これからも会社で頑張る社員にあげるもの」……だそうだ。初めて聞いた。ボーナスとは基本的に会社の裁量権は大きいものだが、最も標準的な決定方法は「基本給×月数×評価係数」の形をとるものになる。これは明らかに社長の私情だ。しかし、私には抵抗する力など一切残っていなかった。言われるがままに会社を辞める事しか出来なかった。

最終日、社長と話した記憶はない。上司と挨拶を交わした記憶もない。

ちなみに上司の作るデザインは、最高にセンスがなかった。一度も優れた仕事というものを見た事がなかった。彼はいつも子供の自慢と不倫相手の自慢をしていた。いつも奥さんをバカにしていた。下劣で下種な男性像そのものを具現化したような男だった。

 

幸せになる権利

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広告業界は所謂ブラック企業が多い。離れて久しいがきっと今も現状はそう変わっていないだろう。あの時は辛かったが、その経験があったからこそ今があるとも思っている。2度と戻ろうとは思わないが。

2018年も終わり、平成も終わり、新たな時代を迎えようとしている。この時期だからこそ、今の自分これからの自分について見直してみるのもいいかもしれない。広告業界だけに留まらず、この国はブラック企業が余りにも多すぎる。

あの頃こんな言葉をかけてくれた人がいる。

「人は誰でも幸せになる権利を持っているけど、不幸になる権利なんて誰も持っていないんだよ」

企業の幸せより、自分の幸せを選択する。そんな当たり前の権利をもっと普通に享受出来る国になればいいのにと、私は思う。

ライター :星野 藍

星野

グラフィック&UIデザイナー、写真家、書道家。福島県福島市出身。従姉の死、軍艦島へ渡った事をきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。
2016年『チェルノブイリ/福島 ~福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た~』(八画文化会館)上梓。廃墟の他怪しい場所やスラム街、未承認国家にソビエト連邦など、好奇心の侭に国内外を縦横無尽に徘徊する。

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