【ツキノワグマ】臆病なのに人喰いは本当か? プロが教えるキャンプや登山でクマに出会った際の逃げ方・対処法

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記事内の写真 / 文:里中遊歩 
東京都東村山市在住。日本野生生物リサーチセンター代表。野生動物の調査の傍ら、著作活動や各講演会における活動、及びメディアへの出演や協力を行なう。主に哺乳類を軸とした動物全般の調査に重点を置いて活動。主な著書に「サトナカがゆく! ~風まかせ動物探索記」、「絶滅動物調査ファイル(『もしも』の図鑑)」など。

春先はタケノコ堀りの人々が、秋口には山野草採りの人々が襲われたというニュースが流れるツキノワグマ。昨年には、秋田でタケノコ掘りに行った人たちが次々と命を奪われ、なかには食べられてしまっていた人もいるという凄惨なニュースも……。

果たして本当にツキノワグマはメディアなどで言われているような怖ろしい存在なのか?

その背景にある真実について仮説を立てながら検証し、ツキノワグマの本当の姿について理解して頂くと同時に、もしも出遭ってしまった際の正しい対処法などについてもお話ししていきたいと思う。

ツキノワグマってどんな動物?

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日本のツキノワグマは、ニホンツキノワグマと呼ばれ、食肉目クマ科クマ属に分類される。

“クマ”と聞くと「後ろ脚で立ち上がると3m以上の大きさがあって怖いもの」と思っている人も少なくないようだが、実はこのツキノワグマ、大きくてもせいぜい180cm程度。通常は立ち上がっても大体120~140cmくらいの大きさなのであり、普通の大人よりも小さい場合がほとんどだ(北海道にのみ棲息するエゾヒグマは、大きいものだと3m近くになる個体も存在する)。

“ツキノワ”という名前の由来は、胸元にある白いV字型の模様が『月の輪』に似ていることによるが、この模様がない個体もあるし、全然ツキノワグマじゃないクマなのにツキノワがある場合だってある。まっ、実は動物の名前の付け方って結構いい加減で雑だったりするので、あまり真に受けない方が良い場合も少なくない。

現在日本国内では、15,000~25,000頭くらいが本州のほぼ全域と四国の一部に棲息していると考えられている。九州にもかつては棲息していたのだが、1957年以降の目撃情報がなく、どうやら現在では絶滅してしまったようだ。

食性については、雑食性であるがどちらかというと植物食傾向が強い。積極的に獲物を襲って食べるようなことはほとんどなく、大好物はドングリやハチミツ、木の実などなど。たまたま死んでいたシカなどを見つけた場合に限り、その肉を食べることがある程度と考えて良いであろう。

元々南方系のクマであり、そもそもリスクを冒して他者と争ったり獲物を狩ったりせずとも、お腹が空いたらその辺の木の実を食べたりしていれば生きていくことができたのだ。

だから彼らは、基本的には穏やかな性格であり、もっと言えば臆病な平和主義者なのである。ほとんど“クマのプーさん”の世界だ。

 

町に出没するクマたちの本当の理由

そんな平和主義者的な性格であるツキノワグマたちであるが、ここ何年も、秋口になると「クマが町に出没!」などというニュースが頻繁に流れるようになった。

ひと昔前まで、そんな話はほとんどなかった筈なのに、何故最近になって臆病者のツキノワグマが山を下りてくるようになってしまったのであろうか?

その都度、「山のドングリが不作」「山林の開拓によって棲息域を追われた」などなど様々な原因が挙げられているが、私の仮説はちょっと違う。もちろん、上述したものも原因の一つではあるが、それよりももっと大きな、根本的な原因があるのだ。

それは、『人里から野良犬が消えた』こと。

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かつての日本では、山の麓には里山があり、その先に町、更にその先に都会があった。そしてその里山や町には、多くの野良犬が棲息していたのである。

クマにとって、イヌは天敵である。

実は昔から、山を下りるクマは少なくなかった。しかし下りた先の里山には沢山の野良犬がおり、それ以上先へは行けなかったのである。

ところが1970年代になると、日本中で“野犬狩り”が盛んとなり、同時に里山も急速に姿を消していった。結果、1980~1990年代になると野犬を見る機会はほとんどなくなった。

するとクマを始めとして、タヌキやハクビシン、イノシシなどの動物たちが山を下りられるようになり、里山もほとんどないので、山を下りたらいきなり町に出るといった事態となってしまったのである。

 

【人喰いは偏見?】何故臆病な筈のクマがヒトを襲うのか?

ここ10数年、毎年初夏から秋口にかけて、何人かの人たちが鉢合わせたツキノワグマに殺されたり重症を負わされたりしている。

これにより、「あえて人を襲うツキノワグマが増え、人喰いクマへと変わろうとしている」などという実しやかな噂も流れるようになっているが、果たしてそれは本当なのであろうか。

これまたあくまでも推測の域ではあるのだが、個人的には「否」。それらのほとんどは、不運な偶然が重なり合ったことによる事故であると考えている。

大抵の被害者は、タケノコ掘りや山菜採りなどで山に入った人たちである。例えば山菜取りの場合、あまり大声で話をしたり大きく動き回ったりすることはない。しゃがみ込んだりしながらチマチマと採取することが多い。

通常、ツキノワグマは周囲の匂いや音、気配に非常に敏感で、人がいたりすると、コチラが気づく随分前に気がついて、さっさと逃げてしまうことがほとんどだ。しかし、人がしゃがみ込んでひとつの場所からほとんど動かなかった場合、そして彼らの風下にいた場合などは、いくら匂いや気配に敏感なツキノワグマであっても気づかないことだってある。

で、草をかき分けて呑気に歩いていたら、いきなりその鼻先に人が現れるのである。そりゃあ彼らだって驚くであろう。「きゃああ」となって「いやあああ」と振り放った前脚がヒットすれば、その一撃で人間なんて吹き飛ばされて死んでしまうのだ。

だから、「クマに襲われて死亡」というニュースなどをよく目にするが、ツキノワグマからすれば意識して襲ったワケではなく「慌てて自己防衛の為に手を出した」といった場合が多く、正当防衛を主張したいような状況なのである。

勿論、うっかり気づかずに人が母グマと仔グマとの間に入ってしまって、仔グマを護ろうと母グマが捨て身で人を攻撃したり、猟師などに追われて逃げながらパニックになっているクマが、たまたま出遭った人に襲いかかったり……、といった例外もあるので、全てをひと括りにすることはできないが……。

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【熊避け鈴の有効性】クマと出遭わない為には?

まず出遭わない為の対処法として、よく「熊避けの鈴をつける」「ラジオを流す」などが良いと言われているが、果たして効果はあるのであろうか?

実は、私は山に入ってクマを始めとする野生動物を調査するのが仕事である為、そもそも熊避け鈴など使ったことがない。本当に効果があるとした場合、そんなものを携帯していたら逢えるものにも逢えなくなってしまうではないか。

だから実際のところは判らないのだが、私の周囲の人たちの情報を基に考察するに、鈴やラジオに関してはあまり大きな効果はないのではないかと推測する。特に2~4歳程度の好奇心旺盛で人に対する警戒心に欠けている若い個体の場合、その音に興味を示して寄ってきてしまう可能性も考えられるであろう。今度、本当におびき寄せられるかどうか、あえて鈴を使って調査をしてみようかな。

つまり熊避けの為には、そんなクマたちにも「なんだかよく判らないけど、きっと近づいてはイケナイ相手なんだ」と思わせることができなければいけないということだ。

となると、一つ目の対策としては、多人数で楽しくお喋りしながら山に入ること。コチラの数が多ければ、いくら警戒心に欠けている若い個体であろうとも、そう易々と近づいて来ようとは考えないであろう。

そして二つ目は、彼らにとって耳障りな音……、例えば爆竹などの破裂音を定期的に鳴らしながら山に入ること。これも相応の効果があると考えられる。

でもせっかく自然豊かな山の中にいるのに、ずっとそんな音を携えていなければならないというのは、あまりオススメしたくない。時々私も山の中でそういったハイカーに遭遇することがあるのだが、正直言ってやたらウルサイし、何の為に山に来ているのか疑問を感じてしまう。動物調査をしている私たちにしてみれば、殺意が芽生える瞬間でもあったりする。あんたらがおると、出逢える動物たちとも出逢えなくなってしまうがな。

そもそも山は動物たちの棲息する場所なのであって、私たち人間が「お邪魔してます」的にいなければならない筈だ。そんなところで我が物顔で「パンパンパンパン」破裂音を響かせるというのは、それこそ人間のエゴ以外のナニモノでもない。

自粛をして頂きたいものである。と言うか、そこまでして山に来なくても良いんじゃないのか?

 

クマと出遭ってしまった際の対処法は?

私はフィールドイベントなどを行なうことが多いのであるが、その際、時々「もしもクマに出遭ってしまったらどうしたら良いですか?」といった質問を受けることがある。

そんな時、私は「大チャンスです! とにかく大急ぎで写真を撮りましょう」などと半分冗談でそう答えるものだ。

実際、私も以前、山で昼食のオニギリを頬張っていた時、背後になんとなく気配を感じて振り返ると、約15mのところにツキノワグマがいて、コチラをジーッと眺めていたことがあった。

勿論、すぐにオニギリをカメラに持ち替え、立ち上がって撮影したことは言うまでもない。以下の写真はその時に撮影したものである。

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但し当然ながら、一般の人にはこの対応策はオススメしない。

この時は、このツキノワグマが好奇心のみで近寄ってきた若い個体であること、またその行動や表情から精神状態が落ち着いていること、などを読み取った上で「大丈夫だ」と判断できたから、コチラも冷静に撮影することができたのだ。一般の人にその正確な判断を委ねるには少々無理がある。

基本的には、最初からいきなり興奮状態のツキノワグマと出遭ってしまうことなど滅多にないので、驚いて大声を上げたり、飛び上がったりして刺激を与えないことが一番だ。

また走って逃げ出したりもするべきではない。襲う気がなくても、面白がって追い掛けてくることもあるので、決して背を見せることなく、ゆっくりと後ずさりしながら離れていくのが良いであろう。

それでもコチラに興味津々で近寄って来ようとする場合には、精一杯に手を広げて自分を大きく見せ、なるべく低い声で「うー」などと唸りながら、逆にコチラから一歩二歩と近寄ってみるのが効果的だ。一般の人にはかなり難易度が高いかもしれないが、実際に上の写真のツキノワグマが近づいて来ようとした際には、この方法でコチラから近づいたら、慌ててクルッと背を向けて逃げていったものである。

それでも立ち去らない場合には、最後の手段『熊避けスプレー』だ。実際に使用したことはないが、私も山に入る際には常時携帯している。

この威力は凄まじい。かつてテレビ撮影の際、スタッフが「スプレー噴射の状態をインサートで撮りたい」と言い出して撮影していたのだが、彼らはうっかり者であった為、背景のことばかりを気にしており、風下から風上に向けて噴射した。

何かちょっと嫌な予感がしていた私は少し離れたところからその光景を眺めていたのであるが、スプレーを噴射した瞬間、スプレーのノズルに指をかけて噴射したAD、その横に立っていたディレクター、カメラマン、カメラアシスタント、すぐ近くにいた記録係のADの5名が、いきなり地面を転げてジタバタと苦しがる破目となった。

「目が開かない」「息ができなくて苦しい」「喉がヒリヒリして声が出せない」「顔全体が燃えるように熱い」とは、スプレーの威力を身を持って体験したテレビスタッフたちの後日談。

うん、一瞬にしてあれだけの威力を発揮できるのであれば、熊避けスプレーは効果絶大だ。ただし、自身が風下にいた場合は、クマと一緒に転げ回る運命となるかもしれないので、風向きにはいつも注意しておきたいものである。

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ライター : 里中遊歩

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東京都東村山市在住。日本野生生物リサーチセンター代表。音楽ディレクター、広告プランナーなどを経て、現在では野生動物の調査の傍ら、著作活動や各講演会における活動、及びメディアへの出演や協力を行なう。主に哺乳類を軸とした動物全般の調査に重点を置いて活動。「日本に棲息する外来種生物」や「東京都内に棲息する動物たち」を中心に調査を行なう。主な著書として、「サトナカがゆく! ~風まかせ動物探索記」(全国農村教育協会)、「絶滅動物調査ファイル(『もしも』の図鑑)」(実業之日本社)など。

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